「おいで?」
握手したままの手をギュッと握り締められると、無理やり引っ張られる。
「ちょっとどこ行くのよ!」
「秘密〜」
「ねぇ、ちょっと待ってってば。どこに行くかだけでも教えてよー」
もしかしてこのままホテルに連れ込まれて……。
うわーっ、さすがにそれはやばいでしょ!
「じゃあね〜、問題」
「はいっ?」
「うるさく喋っていると、静かにって注意される場所は?」
「えっ、と」
静かに静かに静かに……。
分かんないっ!!
「ブブーッ、時間切れ。ほら」
急に立ち止まった彼は、手を離して正面を向いた。
「うわぁー、綺麗ー」
「でしょ」
果てしなく広がる砂浜に七色に光る海。
波に揺られて揺らめく光に散らばる白い雪。
その光景は幻想的で、思わずうっとりするほどだった。
「こっちまでおいで」
手招きした後、私に向かって伸ばされた手。
この雰囲気にのまれたのかな。
私はそっと彼の指に自分の指を絡めた。
「気を付けて歩いて」
私を気遣いながら、先に進んでいく彼の背中を眺めながら歩いていく。
柔らかい砂の粒子に黒いブーツは埋まりながらは抜け、それの繰り返しで砂塗れ。
ふぅ。彼に支えられながら歩くものの体力使うわ。
程よく歩いたところで、波打ち際まで近づいていた。
ひとたび潮風が吹くと身震いをさせるくらい。
だから誰もいないのかも。
そんなことを思いながら私が寒さに身を縮こませていると、それに気付いたのか彼は立ち止まって、
「何してるの?」
再び手を離すと、今度は腰にまわしてきた。