「一番下の行見て?」
「下重一五? あなたの名前、じゃないの?」
「アハハハハッ。違うんだよね〜っ」
思いっきり笑い飛ばされる私。
ずっと一五って呼んでたのに!!
本当にそれが名前じゃなかっただなんて。
けど、じゃあどうして私の前に現れたの?
「これはね、下を重ねろって意味だったんだ。一行目と二行目の一番目と五番目の文字をね。分かる? ひいらぎ、さっき言ったんだけどねー」
「さっき何か言ったっけ?」
「フフッ、本当に偶然にもね。ま、だから姿を現したんだけど?」
私……、
一五ってしか呼んでないよね?
他に何か言ったっけ?
あっ!!
もしかして、あの素晴らしいネーミング?
って、
「雪男ーーーっ!?」
「ピンポーン」
私は紙の文字をよく眺めた。
雨が降る田んぼの中で
ヨルノナカヨンデミテ
一番目と五番目の文字……。
雨とヨで「雪」。
田とカで「男」。
あっ、なるほど〜!
「なぁんだ、雪男か」
私はホッと肩をなでおろした。
「……驚かないの?」
不安げに私を見つめる一五(じゃないんだっけ)の姿に、私の胸はさらに高まっていく。
そっと彼の頬に手を当てた。
冷たい……。
いつも感じていたこの冷たさは雪男だったから?
だけど。
「あったかい。一五……って名前じゃなかったね。あなたが独り身でよかった」
「ひいらぎ……」
「あなたに驚かされるのなんていつものことでしょ。いいの、あなたが何であっても。私は、あなたが好きなんだから!」
そう、今に始まったことじゃないんだから。
幾度となく驚かされて、すっかり慣れちゃった。
それに薄々感じていたんだよ、あなたがあまりにも人並み外れているから。
そんなことよりも、今、こうやってあなたといれるだけで、
「……幸せ」
彼の目を一点に捉え、これ以上ないってくらいの笑顔を向けた。