「おはよ、ひいらぎ」

「えっ、えっ、どうしたの? 今日雪降ってないよ?」



突然目の前に現れた彼。

雪が降っていない、それどころか雲一つない晴れ渡った日の朝。

大学の門をくぐろうとした瞬間のことだった。


私は思わず目を擦った。

夢、幻、じゃないよね?


そんな私の様子を見て、いつものように笑いだす始末。



「ハハッ、今日は別れを言いにきたんだ」



……え?



「別れ?」



突然脈絡のないことを言いだすのはいつものことなんだけど、今回ばかりは頭がついていかない。

別れってどういうこと?



「俺、ひいらぎと過ごせて楽しかったよ、じゃ、バイバイ」



いつもみたいなクシャとした笑顔じゃなくて、切なげに目尻を下げた笑顔で寂しそうな雰囲気。


その顔がその言葉が、事実だということを表しているようだった。

それに、「またね」じゃなくて「バイバイ」って言った。

もう、会えないってこと?



「ちょっと待ってよっ!!」



私は、初めて走り去る彼を止めることができた。


無意識のうちに彼の服の裾を掴んでいたおかげで。



「もう会えないってこと?」

「……ん。ひいらぎ……また俺と会いたい?」

「当たり前でしょ!!」



人目もはばからず大声を出す私に、やっと見せてくれた大好きな笑顔。

その後、何かを思いついたかのような顔をして、



「紙とペン貸して?」



右手をさっと差し出してきた。


私は慌てて手を離してバッグの中を探り、彼に紙とペンを手渡す。

門を利用してスラスラと文字を書いていく彼。

私は黙って眺めているだけ。



「会いたくなったら俺のこと呼べよ?」



そう言いながら渡された、紙とペン。

それだけ言うと彼は瞬く間に去っていった。


呆然と立ち尽くしていた私はチャイムの音が鳴り響くその時まで、その場所で固まっていた。


ようやく、我に返ったところで紙を見たんだっけ……。