「交流や公式の場など、嫌なときは遠慮せずに言ってくれ。菊乃にストレスを与えたくて連れてきたわけじゃないんだ」
「いいえ、博已さん」

私は必死に答える。優しさは嬉しい。だけど、甘えてしまいたくない。

「私なりに、協調できるように頑張ります。博已さんの妻としてふさわしい態度を心掛けます。すぐには無理かもしれないけど、博已さんの役に立ちたいから」

博已さんはふうと息をついて言った。

「菊乃が隣にいるだけで、充分すぎるくらい役に立っているんだけどな」

その言葉の真意を問いただす間もなく博已さんは私の身体を解放した。ソファから立ち上がり、キッチンへ向かう。

「さあ、夕食をどうしようか。一緒に考えよう」

すっかりしょぼくれた私のために、この日の夕食は博已さんが日本から持ってきた材料でお味噌汁を作り、鍋でお米を炊いてくれた。
ふたりで食べた日本の味は、ホッとする優しさだった。