イタリア到着から三日が経過した。
この日は私にとって、初めてのお仕事日。大使の奥様のランチ会に招かれているのだ。

日本にいるときに、博已さんが買ってくれたワンピースは春夏物なのでまだ着られる。いい品なので、博已さんのご両親のあいさつの時にしか着ていない。パンプスと靴もひと揃えあるので大丈夫。髪の毛はきちっとまとめ髪にした。ヘアアクセサリーが何もないと気づいたけれど、あまり飾り立てなくてもいいだろうとそのままにする。

昼前に迎えの車がきた。大使館が契約しているイタリア人運転手さんだ。
ランチ会は大使の家である大使公邸で行われるらしい。てっきり外部のリストランテに行くのかと思っていたが、日本から同行している大使公邸の専属シェフが腕を振るってくれるそうだ。
大使公邸は大使館の敷地内にある国も多いそうだが、イタリアはローマ郊外に立派な邸宅があった。黄色っぽいクリーム色の建物に到着すると使用人の女性がレセプションルームに案内してくれた。二十人ほどが入れる部屋だ。ちらっと見えたけれど、この部屋以外にもソファのある応接間だったりパーティールームのような広間が一階にあるので、大使の住まいはただの住居ではなく公的な客人も招けるようになっているのだろう。
すでに職員の奥様たちが何人も集まっていた。

「あら、あなたね。ようこそ」

最奥の席にいた白髪の上品そうなご夫人が立ち上がった。彼女が大使夫人なのはすぐにわかった。私は歩みよって頭を下げた。