「奥さん、今度うちの家内が食事会を開くんだ。ランチにお招きするから顔を出してもらえるかい?」
大使に言われ、私は「はい!」と元気よく返事をしてしまった。咄嗟とはいえ、元気が良すぎたかもしれない。
大使が楽しそうに笑って頷いていた。
それからは大使館内を歩き回り、各部署に挨拶をした。ローマの日本大使館は同じ建物内に領事部もあり、併せて二十名ほどが勤務している。
博已さんの古い知り合いの堂島さんという男性は、陸上自衛隊の一佐だという。防衛駐在官として一等書記官の名で出向してきているそうだ。
「菊乃さん、初めまして。俺は堂島といいます。いやあ、よく加賀谷なんかを選んだねえ」
堂島さんは明るく博已さんをけなしている。博已さんがめずらしく不満顔だ。
「堂島さん、妻に変なことを言わないでください」
「ええ? だって加賀谷だぜ。朴念仁の仏頂面で真面目も真面目の加賀谷が、三十半ばでいきなり若くて可愛い嫁さんを連れてきたら、どうやって口説いたか気になるだろ」
「気にしなくて結構」
こんな砕けたやりとりができるくらい仲のいい人なのか。博已さんが普段より表情豊かに見えるのも旧知の人といるからだろう。
それを考えたら、私と博已さんの関係なんてまだまだだなあと感じてしまう。
「日本と同じ感覚で過ごすと危ない。慣れるまでは、なるべく加賀谷と歩き回るといいですよ。あとは困ったら俺を頼ってね。俺は寂しい単身赴任なもんで、ひとり暮らし。いつでも駆けつけますよ」
「堂島さん、軽口たたいてないで仕事に戻ってくださいね」
博已さんは私を隠すように背中側に回す。堂島さんがその様子をにやにや見ていた。
大使に言われ、私は「はい!」と元気よく返事をしてしまった。咄嗟とはいえ、元気が良すぎたかもしれない。
大使が楽しそうに笑って頷いていた。
それからは大使館内を歩き回り、各部署に挨拶をした。ローマの日本大使館は同じ建物内に領事部もあり、併せて二十名ほどが勤務している。
博已さんの古い知り合いの堂島さんという男性は、陸上自衛隊の一佐だという。防衛駐在官として一等書記官の名で出向してきているそうだ。
「菊乃さん、初めまして。俺は堂島といいます。いやあ、よく加賀谷なんかを選んだねえ」
堂島さんは明るく博已さんをけなしている。博已さんがめずらしく不満顔だ。
「堂島さん、妻に変なことを言わないでください」
「ええ? だって加賀谷だぜ。朴念仁の仏頂面で真面目も真面目の加賀谷が、三十半ばでいきなり若くて可愛い嫁さんを連れてきたら、どうやって口説いたか気になるだろ」
「気にしなくて結構」
こんな砕けたやりとりができるくらい仲のいい人なのか。博已さんが普段より表情豊かに見えるのも旧知の人といるからだろう。
それを考えたら、私と博已さんの関係なんてまだまだだなあと感じてしまう。
「日本と同じ感覚で過ごすと危ない。慣れるまでは、なるべく加賀谷と歩き回るといいですよ。あとは困ったら俺を頼ってね。俺は寂しい単身赴任なもんで、ひとり暮らし。いつでも駆けつけますよ」
「堂島さん、軽口たたいてないで仕事に戻ってくださいね」
博已さんは私を隠すように背中側に回す。堂島さんがその様子をにやにや見ていた。



