エリート外交官は契約妻への一途すぎる愛を諦めない~きみは俺だけのもの~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】

ほんの少し休むつもりでベッドに入り、博已さんが起こしに来るまで二時間ほど熟睡してしまった。
博已さんが空港で買っておいてくれたパンで朝食にし、身支度を整えると、大使館から迎えの車がきた。今日は私も一緒だから着てくれた様子。普段の博已さんの出勤はバスになるそうだ。

「おはようございます。ようこそ、ローマへ」

エントランスまで来てくれたのは二十代後半と思しき男性だ。

「職員の伊藤と申します。加賀谷さん、奥様、よろしくお願いします」
「迎えに来てくれてありがとう」
「今日はご挨拶だけでしたね。長旅でお疲れでしょうし、終わりましたらまた私がお送りします」

伊藤さんの運転で、ローマ市内を進み大使館に向かった。

「おふたりともイタリアは初めてですか」

尋ねられ、私は「はい」と頷き、博已さんが「俺は学生の頃に一度」と答える。語学研修という名の修学旅行の行先がイタリアだったそうだ。

「ローマはご存じの通り人気の観光地です。華やかで明るく、現地の人間も観光客慣れしているのでフレンドリーです。美味しい店や買い物がしやすい市場などはお教えしますが、まずは犯罪に気を付けてください」

犯罪、という言葉にどきりとする。

「ここで暮らしていても見た目は外国人ですから、観光客としてカモにされることはあります。スリ、置き引きはもちろん、ぼったくりバーや押し売りなんかにも気を付けてくださいね」
「学生の頃来たとき、スペイン広場で小さな女の子に花を売られたよ」
「今も花売りはいますね。大人も子どももいますし、強引に売りつけてくる連中もいますよ。日本と比べたら、やはり貧富の差が大きいですからね」

伊藤さんはバックミラーごしに私をちらりと見て笑った。