「一時帰国することもあるけれど、基本はイタリアに行きっぱなしだから、しばらく会えないね。清原さん、大学院を出て就職したらここも辞めちゃうでしょう。帰国したら連絡するから会おうね」
「もちろんですよ。あ~、今日は菊乃さんの幸せそうな顔が見られてよかったです」

清原さんが満面の笑みで言い、私は戸惑いを隠しつつ笑い返す。

「幸せそうに見えるかな?」
「もちろんですよ。ご主人とラブラブなんでしょう?」

清原さんは私と博已さんが契約婚だなんて当然知らない。おそらく世間一般の新婚夫婦のように蜜月の日々を過ごしていると思っているのではないだろうか。

「外務省のエリートに見初められて、いきなりプロポーズ。そしてともに海外赴任……。庶民にも手が届くかもしれないシンデレラストーリーを菊乃さんは目の前でやってのけてくれたんです。アルバイト全員、めちゃくちゃ盛り上がりましたよ! あれ以来、みんなイケメンで身なりのいいお客さんを探しちゃってますもん」
「こらこらこら、真面目に勤務しなさい」
「でも加賀谷さんほどのスマートなイケメンはなかなかいないです~」

確かに博已さんは目を引く美貌の男性だ。シックな官僚スタイルも当然似合うけれど、派手な格好をしても似合いそうだし、モデルだと言われてもうなずける。
つくづくこんな地味で面白味のない私と結婚する理由がない。

「菊乃さんもすごく綺麗になりましたよね!」

清原さんに言われ、私はどきりとした。愛されている女はホルモンで綺麗になるとか、そういうことかな。だとしたら勘違いなんだけれど。