連休を避けたため高速道路は空いていた。よく晴れた五月の土曜日、俺の運転で長野の実家まで行ってきたところだ。

「お土産いっぱいもらっちゃいましたね」

助手席の菊乃は楽しそうだ。日帰り旅行の行先が俺の実家では、気づまりではないかとも思ったが、いつも通り明るい。
なお、菊乃の両親は四月に上京してきたタイミングで挨拶をしている。スマホの画面通話で会っていたことと、菊乃と伯父一家のトラブルが前段階であったため、菊乃の両親は俺をすぐに信頼してくれたようだ。

「両親は菊乃を気に入ったみたいだ。きみが人当たりよく振舞ってくれたおかげだよ」
「それなら、よかったです。子ども過ぎて博已さんには釣り合わないって思われたらどうしようって心配していたので」

菊乃は苦笑いしている。両親は俺が結婚すると言った時点で大喜びだった。ひとり息子の結婚はとうに諦めていたらしい。仕事を一生懸命してくれるならそれでいいと思っていたら、可愛い女性を連れてきたのだから、親戚近所に触れ回りちょっとしたお祭り騒ぎだった。

「俺が選んだ人を両親が気に入らないわけがない。なにより、菊乃は人に好かれるたちだろう。俺は心配していなかった」
「そんなことないですよ~。博已さんのご両親、優しくて私もほっとしました。……でも、契約が終わって離婚したらがっかりされちゃうのかな」

菊乃がうつむいたのが目の端に映る。それなら離婚しなければいい、と言いかけてやめた。
せっかく契約という形でも一緒にいられるチャンスを得たのだ。焦ってがっつくべきじゃない。