「給料以上の金で遊んでいる様子だから、田澤に言って、あいつの会社のパソコンを調べさせようとしたんだよ。そしたらあいつ、正に逆らえなくて金儲けの手伝いや菊乃に罪をなすりつける方法を考えたなんてぬかしやがる」

伯父の声音は怒りに満ち、唸るようだった。

「正は俺にバレたと知るや雲隠れだ。あいつはもう勘当だ。うちも継がせん」
「菊乃、本当にごめんね。あんたは本当のことを言っていたのに、信じてやれなくて」
「すまなかった。菊乃」

伯父と伯母が再び頭を下げた。私はあわてて、伯母の肩に触れた。

「いえ、わかってもらえたならいいんです。私は伯父さんも伯母さんもマルナカ弁当も大事に思っていたから、泥棒をしたと思われ続けるのはつらかった。でも、誤解が解けたらもういいんです」
「菊乃、帰ってきちゃくれねえか」

伯父が顔をあげ、私に言った。下がった眉も落ちくぼんだ瞳も、伯父が本気でしょげているのが伝わってくる。

「おまえは社員にも好かれてる。賢くて勤勉だ。正は絶対に戻ってこさせないから、ゆくゆくはマルナカ弁当を継いでほしいとも思ってる。戻ってくる気はないか?」
「むしがいい話だとは思ってるよ。でも、あんたには本当に申し訳ないことをしたから、私たちもできることをしたいんだよ。あんたがマルナカ弁当の女社長になってくれたら……」

伯父と伯母の言葉に、一瞬迷ったのは事実だった。