「ほら、お店目の前! いきましょ」
少し先を歩き、店の自動ドアの前に立った。
「いらっしゃいませー」
店内はふたり組の客がいて、すでにレジに並んでいる。三席だけあるイートインスペースは無人だ。夕方は昼ほど混まないのだ。
「あ、小枝店長!」
客のレジが終わると入ったばかりの大学生アルバイトの子が声をあげ、奥から清原さんともうひとりが顔を出した。
「小枝店長! いらっしゃいませー!」
「わ~、挨拶できなかったから会えて嬉しい」
勤務しているアルバイト三人が集まってきた。社員はいないようだ。おそらくレジ閉めのときだけ来るのだろう。
「こんばんは。急に辞めちゃってごめんね」
「寂しかったですよ~」
「いろいろあったって噂で聞いてます。あ、みんな、小枝店長は悪くないって言ってますからね」
口々に言われ、嬉しいような寂しいようなないまぜの気持ちになる。ああ、私、ここを辞めたんだなあと今更ながら実感がわいた。
「小枝店長、お客様と一緒に来られたんですか?」
清原さんがいぶかしげに尋ね、私はどきりとした。
「ええと、こちら加賀谷博巳さん」
私がお客さんの名前を言って紹介しただけで、その場の三人の様子が変わった。ざわっとした空気は女子特有の色めきだったものだ。その空気の流れのままに私は口にした。
「彼と結婚することになりました」
他に客がいないことも手伝って三人がきゃあっと歓声をあげた。
すると控えめに私たちを見ていた博巳さんがずいっと前に出る。
「皆さんには客として認識されているかと思います。外務省国際情報統括組織におります加賀谷といいます。菊乃さんと結婚することになりました」
少し先を歩き、店の自動ドアの前に立った。
「いらっしゃいませー」
店内はふたり組の客がいて、すでにレジに並んでいる。三席だけあるイートインスペースは無人だ。夕方は昼ほど混まないのだ。
「あ、小枝店長!」
客のレジが終わると入ったばかりの大学生アルバイトの子が声をあげ、奥から清原さんともうひとりが顔を出した。
「小枝店長! いらっしゃいませー!」
「わ~、挨拶できなかったから会えて嬉しい」
勤務しているアルバイト三人が集まってきた。社員はいないようだ。おそらくレジ閉めのときだけ来るのだろう。
「こんばんは。急に辞めちゃってごめんね」
「寂しかったですよ~」
「いろいろあったって噂で聞いてます。あ、みんな、小枝店長は悪くないって言ってますからね」
口々に言われ、嬉しいような寂しいようなないまぜの気持ちになる。ああ、私、ここを辞めたんだなあと今更ながら実感がわいた。
「小枝店長、お客様と一緒に来られたんですか?」
清原さんがいぶかしげに尋ね、私はどきりとした。
「ええと、こちら加賀谷博巳さん」
私がお客さんの名前を言って紹介しただけで、その場の三人の様子が変わった。ざわっとした空気は女子特有の色めきだったものだ。その空気の流れのままに私は口にした。
「彼と結婚することになりました」
他に客がいないことも手伝って三人がきゃあっと歓声をあげた。
すると控えめに私たちを見ていた博巳さんがずいっと前に出る。
「皆さんには客として認識されているかと思います。外務省国際情報統括組織におります加賀谷といいます。菊乃さんと結婚することになりました」



