(今日はお昼なんだ。会えてラッキー)

彼は昼時か夕方、週三、四日は買いに来てくれる常連だ。雰囲気から官公庁にお勤めの方かなと想像している。それと、おそらくは独身。夕方に買っていくお弁当はひとり分だし、たまにコンビニのビニール袋に缶ビールやお茶が一本入っているのを見かけるから。もちろん全部想像ですけど。
平日ほぼ毎日出勤している私は、彼との遭遇率が高い。

「いらっしゃいませ」
「こんにちは。日替わりをお願いします」

低くてよく通る声が耳に心地いい。今日も格好いいなあ、眼福眼福……いえいえ、お客さんに差をつけたりなんかしません。他のお客さんに勧めたように尋ねる。

「本日ポテトサラダがサービス価格です。ご一緒にいかがですか?」
「今日はやめておきます。あまり食べると午後の会議で眠くなってしまうので」
「それは困りますね」

ふふ、と笑うと彼もぎこちないながら控えめな笑顔を見せてくれる。
私よりずっと年上だろうけれど、こんな一瞬は可愛いなと思う。だって、食べすぎたら眠くなるから注意しているんでしょう。会議でうつらうつらしているこの人を想像すると、また可愛い。

「午後も頑張ってくださいね」

彼はかすかに頷き、お弁当のビニール袋を手に踵を返した。
次のお客さんの接客をしながら、視界の片隅で背の高い後ろ姿を見送る。こうして、彼との一瞬を嬉しく思う程度に、私は彼が気になっているのだろう。
かれこれ四年、ただ見ているだけの憧れの人は、私の心の栄養だったりする。