すると彼女がふうと嘆息し、それから再び俺を見た。

「私、不適格だと思います。退職の理由がよくないですし、それで加賀谷さんに迷惑をかけたら困るので」
「退職の理由?」
「横領をした、と。私は絶対そんなことしていませんが、証拠をでっちあげられてしまいました。さらにそれを覆す証拠を、私は出せませんでした」

彼女の沈んだ様子に、やはり訳ありだったのだと納得する。急な退職は、円満退社ではなかったのだ。
しかし、彼女が横領をするような女性なら、ここで素直に俺に話したりはしないだろう。

「きみを陥れた人間が社内にいるんですか」
「おそらくは、従兄だと思います。あの会社は伯父の会社で、従兄は跡継ぎです。伯父が私を可愛がるのが気に入らなかったのかもしれません。昔から八つ当たりはされていましたけれど、まさかここまでして私を追い出そうと考えていたなんて」

俺は迷うことなく、彼女の手に自分の手を重ねた。好意ではなく信頼のためだ。

「それは嫌な思いをしましたね。きみが頑張っている姿を知っている人間なら、そんな言葉は絶対信じないというのに」

彼女の顔が歪み、悲しげに瞳が伏せられた。

「伯父に……信じてもらえなかったのがショックでした。伯父には実家も私自身も恩があるので、私なりに恩返しを頑張ってきたつもりです。だけど、結局何も見てもらえていなかったんだなあって」
「俺がいます」

俺は間髪入れずに言った。弱っている女性につけ込むようになってはいけないと思いつつ、悲しそうな彼女を放っておけない気持ちが勝った。