最後のチャンスだと思った俺は、彼女に結婚を申し込んだ。しかし、いきなり好意を見せては怯えさせると思ったのだ。
彼女が失職しているタイミングなら、仕事として結婚を依頼すればいい。三年間の契約結婚。俺は好意があるけれど、それはぐっと隠しておく。
咄嗟とはいえ、我ながらいい案だと思ったのだが……。

「……加賀谷さんには、契約でも結婚をしなければいけない状況がある、ということですね」
「そうなんです。大使館内や在留邦人コミュニティとの円滑な関係作りのため、結婚していた方がいいと上司からも勧められました」

だいぶ物事を大きく言っているが、問題ないと思う。
ここでどうしても妻が必要な理由を述べ、彼女の心を動かさなければならない。失職した彼女に、メリットのある仕事を提示するのだ。

「俺はその……女性とは縁がなく、一緒についてきてくれる女性がいないもので。小枝さんがお仕事を辞められたと聞いて、妻となれば配偶者手当も出ますし、お仕事としてお誘いできないかと考えました」

まるで利用したくて尋ねてきたという感じになってしまった。しかし、好意をにじませるよりましだろう。下心を見せた方が嫌われる。

「女性と縁がないだなんて、とてもそうは見えません。加賀谷さん……とても素敵ですもん」

ぼそっと彼女が言う。それは社交辞令だろうか、本当にそう思ってくれているのだろうか。

「い、いえ。つまらない男だと言われます」

飾って大きく見せた方が幻滅される。素直に言うと、彼女は俺を下から覗き込んでくる。

「素敵ですよ。うちのお店の子たち、みんな加賀谷さんを格好いいって言ってました。それに、私と少しお喋りしてくださるときも、優しかったです」
「本当に、……期待外れの男です。それでもきみにお願いしたくてここまで来てしまいました。俺の身近にいる女性で、きみが一番理想に近いというか。俺が一緒に行きたいというか」

駄目だ。喋れば喋るほど、余計なことを言ってしまう。