エリート外交官は契約妻への一途すぎる愛を諦めない~きみは俺だけのもの~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】

「辞めちゃうって聞きました」
「嘘でしょう。お金の話……信じらないわ」
「菊乃ちゃんがそんなことするわけない」

他の社員の目もはばからず彼女たちは口々にそう言う。この場に正さんがいないのが幸いだった。私は彼女たちに小さい声で答えた。

「私は何もしていません。でも、信じてはもらえませんでした。私は辞めますが、会社のことをよろしくお願いします。マルナカ弁当のファンはたくさんいるんですから、皆さんが味を守ってくださいね」

他の社員が私をどう思っているのかはわからない。噂が流れているなら、皆伯父たちのように私の罪を信じているのかもしれない。
それでもパートの彼女たちが私を信じようとしてくれているのに胸が熱くなった。
和田さんが耳打ちするように顔を寄せてくる。自然と他の女性も円陣の状態で顔を寄せた。

「絶対に正さんが何かしたのよ。社長が菊乃ちゃんを可愛がってるから、陥れようとしたに違いないわ」
「この前、取引先の部長さんが菊乃ちゃんをすごく褒めてたのよ。社長は嬉しそうにしてたけど、正さんがものすごく面白くなさそうな顔をしてた」
「やたらと小枝さんのデスクの周りをうろうろしてたよ」

口々に飛び出す情報。私だって、正さんの仕業だと感じている。だけど、会社を追い出される私には調べられないし、なにより少し疲れてしまった。

「皆さん、もういいんです」

犯人探しはしない。私は深く頭を下げた。

「四年間、本当にお世話になりました」

エコバッグに荷物を詰め、約四年務めた会社をあとにしたのだった。