報告会が終わればクリスマス休暇になる。
大使館職員は当番制で出勤だが、普段より時間はできる。菊乃と結婚式の準備の最終段階に入り、ふたりでのんびり過ごそう。クリスマスはホテルのディナーを予約している。庶民的な店で食事をすることが多いので、初めてのイタリアでのクリスマスは特別なものにしたかった。
休暇が明けたら結婚式。楽しい予定が目白押しで、今までの人生で一番わくわくしているかもしれない。忙しいが活力に満ち、なんでもできる気がする。隣には最愛の妻がいてくれるし、怖いものなんかない。

難関の報告会は半日以上かかって終わった。大使館に戻り、報告書類をあげると、クリスマス休暇前の大きな仕事は終わり。
どっと疲れが押し寄せてきた。
俺は椅子の背もたれに身体を預け、天井を仰いだ。二十一時過ぎのオフィスに居残る人はない。少々だらしない姿でも、今だけは勘弁してほしい。さすがにくたびれた。身体が重たくて仕方ない。
しかし、心は軽い。明日は日中少し仕事をしたら、夜には菊乃とクリスマスディナーなのだ。用意してあるプレゼントは気に入ってくれるだろうか。

早く帰ろう。建物を出て、目の前の門を目指すが、なぜかぐらぐらと視界が揺れた。おかしい。疲れているのだろうか。なんとなく息苦しい感覚がある。
門を出たところで警備に立っている軍警察の青年に挨拶をされる。いつものように俺も挨拶を返そうとするのだが、のどから声が出なかった。

『カガヤさん?』

呼ぶ声が頭上から聞こえてきて、俺は自分が路上に膝をついていることに気づいた。