コンサートは大盛況だった。チケットは完売。和太鼓の力強い演奏は非常に評判がよく、アンコールも入れて二時間以上の演奏会となった。
大使館職員も何人も聞きにいっていて、大使夫妻も今日のコンサートを楽しんだ。
俺は仕切り役ということもあって、あちこち忙しく動き回っていた。菊乃のそばにいたかったが、演奏以外の時間はなかなか一緒にいられない。菊乃は他の職員たちと一緒に行動すると言い、堂島さんがなるべく近くにいると約束してくれた。会場の警備は現地警察が担当し、大使夫妻にも護衛がつくため、堂島さんの仕事はそう多くはないそうだ。

「素敵でしたね。演奏」
「ああ」
「音がおなかに響いたぁ。拍手もすごかったし。日本の文化が受け入れられるのって嬉しいですね!」

コンサートが終わると、菊乃は満足そうに言う。純粋に楽しんでくれている姿に、一瞬緊張感がほどけた。彼女のこういう素直な精神には、いつも救われているように思う。

「菊乃、この後のパーティーだが、後半は伊藤たちに任せて俺はきみを送る予定だ」
「大丈夫ですか? 私は目立つところにいますから、最後まで一緒にいますよ」
「いや、きみの仕事はもう充分だ。少し待たせるが必ず俺が連れ帰るから、ひとりにならないように過ごしてくれ。この後もすぐに堂島さんが来るからここで待っているといい」
「わかりました」

俺は菊乃を客席に残し、先にホールを出た。
広々としたエントランスを使って、この後立食形式のパーティーが開催される。パーティーは招待客のみだが、コンサートの観客はそのまま外のフードワゴンに流れるので、ちょっとしたお祭りのような賑わいだ。
日はもうほとんど暮れ、ワゴンのある広場の街頭も点き始める時分だ。

ふと、スマホが振動しているのに気付いた。見れば堂島さんからだ。

「はい、加賀谷です」
『加賀谷、菊乃さんは一緒か?』
「いえ、まだ客席にいるはずですが」
『いないんだ』

すっと背筋が冷えた。菊乃がいない?