コンサート当日はよく晴れ、昼から開場したイベントは大勢の人で賑わっていた。ホール前の広場はフードワゴン目当ての客も多く、家族連れや若者の姿が目立つ。人の流れにつられてか観光客も訪れているようだ。
コンサートは十五時開演の予定。コンサート前に、俺は担当者とともにヴァローリのいる特別観覧席にやってきた。

『今日はよろしくお願いします』

挨拶をすると、ヴァローリは最初と寸分たがわぬ人の好い笑顔を俺に向けた。

『素晴らしいイベントの直前に、部下の不祥事があって申し訳ないよ。まったく長年仕事をしていて、部下の本性も見抜けないとは自分が情けない』

あくまで自分は関係ないというスタンスは清々しいほどである。俺は極力私情をはさまないよう答える。

『ヴァローリ先生が一番ショックでしたでしょう。マスコミの対応にお疲れのことと思います。和太鼓の音色が、少しでも先生のお心の慰めになればいいのですが』
『私も楽しみにしていたからね。勇壮な演奏に力をもらうとするよ』
『このコンサートは先生のお力で開催できるのです。終演後のパーティーもぜひよろしくお願いします』

深々と頭を下げて、特別席から退こうとするとヴァローリが笑顔で尋ねた。

『今日はきみのヤマトナデシコは一緒かな』
『……はい。同行しています』
『いや、彼女の言っていた唐揚げをぜひ食べたいなと思ってね』

そう笑顔で答えたヴァローリは、まったく他意などなさそうに見えた。