堂島さんと俺の共通見解では、ヴァローリ側は菊乃や俺を監視するかもしれないが、実際に接触するようなことはないだろう。大使館職員の妻に何かあれば、外交問題に発展しかねないからだ。
しかし、ヴァローリの直接の部下ではない人間……例えばルース島のマフィアや、その仲介に入っている組織は何をしてくるかわからない。彼らが事件を起こしても、ヴァローリ側は無関係だと言い張れる。

『動きがあったら、すぐにでも嫁さんを日本に返す覚悟は決めておけ』

堂島さんにはそう言われた。
俺は菊乃といたいし、彼女もそう願っている。一方で、俺ひとりで彼女を守り切れないときは、日本に返すべきだと思っている。菊乃の身の安全より優先すべきものはないのだ。

「博已さん、お帰りなさい」

帰宅すると菊乃は笑顔で迎えてくれる。やっと気持ちを伝えられ、両想いだとわかったばかりの妻は今日もとても可愛らしい。
ろくに外出できないのは退屈だろうと不憫に思うが、最近はいっそう語学に力を入れて勉強しているようだ。

「菊乃、今日は外に食事に出ようか」

早い時刻の帰宅だったので、菊乃も夕食を作り始めている様子はない。ふたりでないと外出ができないのだから連れ出したかった。

「それならお買い物に行きたいです。食事は家で作りますよ」
「手間じゃないか?」
「料理も家でできる趣味ですからね」

菊乃は買い物用のかごバッグを手に、俺の腕に細い腕を絡ませてくる。自然に寄り添ってくれる一瞬に嬉しさがこみあげてくる。