翌朝、まだ夜も明けきらない時間に目が覚めた。身体がじんわり痛くて重たい。隣では博已さんが寝息をたてている。
喉の渇きを感じて、パジャマの上だけ羽織り、ベッドを抜け出す。
足腰に響く鈍痛。寝室を出てキッチンでミネラルウォーターをごくごく飲んだ。
それから窓に近づき、薄暗い夜明けのローマを見つめた。初めてイタリアにやってきたときもこんな時間だった。

私と博已さんは初めて結ばれた。予定外だけど、本当の夫婦になってしまった。
昨晩のことを思い出すと恥ずかしくて身体中が熱くなるけれど、とにかくなにもかもが幸せだった。
私たち、両想いだったんだ。
博已さんは、私を好きだから契約相手に選んだ……。思い返せば清原さんたちにした説明は、博已さんの本心だったのだ。知らなかった事実に、ドキドキが止まらない。もう充分恋に落ちていたと思っていたけれど、彼の気持ちと与えられた熱に気持ちが深まっていくのを感じる。

私が見てしまったメモや、議員の周辺のことは、軽視してはいけない。イタリアにいる限り、私は警戒し続けなければいけないかもしれない。それでも、博已さんといようと決めた。
彼が望んでくれる限り隣にいる。絶対に博已さんと離れたくない。

「菊乃」

呼ばれて振り向くと、寝室から博已さんが顔を出していた。上半身は裸で、下だけルームウェアを身に着けている。

「起こしてしまいましたか? はい、お水」

ミネラルウォーターのペットボトを受け取り、博已さんは手をつけずに私の身体を抱き寄せた。

「目が覚めたら菊乃がいなかった。驚いた」
「あら」
「ゆうべのことが夢だったんじゃないかと不安になって」
「ふふ、夢じゃないですよ。そばにいるでしょう」

私は覚えたばかりのキスを博已さんの唇に落とし、それから彼の腰に腕を回した。

「まだ早いです。ベッドに戻りましょう」

ベッドに戻ると、博已さんは私の身体を掻き抱いて眠ってしまった。そのあたたかな温度に安心し、私も再び眠りに落ちていった。