僕は吸血鬼の女の子に屋敷へと招待された。吸血鬼の屋敷とはいったいどんなだろう。
 女の子は地面にたった。
 「飛ばないんだ?」
 僕はきいた。
 「ええ。人前では飛ばないわ」
 「そうなんだ」
 「だって未確認飛行物体扱いされちゃうもの」
 あ、そうか。
 僕は笑って片手を後頭部にやった。
 「だいたい吸血鬼だってだけで、不審者扱いよ」
 「そうなんだ」
 「よく取り調べを受けるわ」
 「へえ」
 「刃物は持ってないけど、牙があるからねえ」
 僕は笑った。
 「それって凶器になるの?」
 「警察に刃物とか持ってないか、と言われ、牙を見せるわ」
 「へえ」
 「すると、警察が「なんですかそれ、八重歯ですか。立派な八重歯ですね」ってほめてくれるの」
 「へえ」
 「あの、君の名前は」
 と、僕。
 「失礼ね。まず自分の名前から名乗るもんじゃない?」
 「あ」
 僕は片手を後頭部にやって笑った。
 「ごめん。僕の名は森司」
 「私の名前は藤堂明日香よ」
 と女の子は言った。僕はにやけた。
 「へえ、明日香ちゃんかあ」
 「ええ」
 「失礼だけどおいくつって、まず先に年齢を言うべきだね。僕は23歳だ」
 「口に気をつけなさい」
 明日香ちゃんは急に大人びた口調になった。
 「え」
 「失礼ね。あなたより年上よ」
 そ、そうか。吸血鬼だからきっとすごい長生きしてんだ。きっと100年以上生きているんだ。
 「ご、じゃなかった申し訳ありません。失礼ですが、ご年齢は」
 「24よ」
 ええええええええええ。たった一つだけ上えええええええ。
 僕は固まった。
 「どうしたの。以外に若かった?」
 「あ、うん。全然若いよ」
 「また口調が戻ったわ」
 「あ、ごめん。お若いですね」
 明日香ちゃんは笑った。
 「ええ。ありがとう」
 こうして僕と明日香ちゃんは、歩いて行った。やがて森を抜けた。
 「でも吸血鬼の家に招かれるなんて夢みたいだなあ」
 「そう」
 と、明日香ちゃん。
 「そういえば、吸血鬼はその家の人に招かれなければ、その家に入ることができないっていいますけど」
 「そうよ」
 「そうなんだ」
 「だって、家の人に招かれずに家へ入るなんてことできる?」
 「え」
 「不法侵入よ」
 「あ、そうか」
 「バカねえ。吸血鬼が不法侵入してどうするの?」
 それもそうだ。吸血鬼が不法侵入しちゃいけない。
 「それこそ、不審者じゃない」
 僕は片手を後頭部にやって笑った。
 「あ、そうか」
 「通報されてしまうわ」
 「そうですかあ」
 「ん」
 と、僕。どうやら僕のアパートに近づいている。
 「どうしたの?」
 「家、この辺なんですか」
 「ええ、そうよ」
 「僕もこの辺なんです」
 「そうなんだあ」
 どんどん僕のアパートに近づいている。すると、僕のアパートの隣にあるお化け屋敷が見えた。誰が住んでいるのかわからない、吸血鬼が住んでいるような屋敷だ。厳かな門があり、洋館がそびえている。
 と、明日香ちゃんは、そのお化け屋敷でとまった。
 「ああ、ここ。僕の家の隣にある吸血鬼の屋敷です」
 「ああ、そうなの」
 「君はこの屋敷の近くに住んでいるんですか」
 「奇遇ね。ここが、私の家よ」
 ええええええええええ。吸血鬼でも住んでそうな屋敷が明日香ちゃんの家だったのか。僕は門の表札を見た。確かに「藤堂明日香」とあった。
 「吸血鬼が吸血鬼が住んでそうな屋敷にすんでるんですか?」
 と、僕はいった。
 「吸血鬼が吸血鬼が住んでそうな屋敷に住んでたらいけない?」
 「あ、別に・・・・・・」
 と、僕。
 明日香ちゃんは笑った。僕も笑った。