それは夏のことだった。
僕は安アパートに住んでいる。居間と台所、トイレ、お風呂がある。ベランダもある。
古いアパートで居間と台所が引き戸で仕切られているのだ。居間には机があり、PCがある。掃除機がある。掃除機はパイプを取って、ばらしてある。
僕は居間に布団をしいて寝ている。半袖、半ズボン。
それは真夜中の出来事だった。
僕はぐっすり寝ていた。シャツに短パンのパジャマ姿。冷房はない。うだるように暑い。
ふと、僕は起きた。なんかいい匂いがする。そうして物音がする。見ると、台所に灯がついている。泥棒?僕は思った。僕はそうっと起きた。
ことことこと・・・・・・。
なんだろう。僕は恐怖した。僕はそおっと起き上がり、掃除機のパイプを取った。僕はパイプを握りしめた。僕はそおっと引き戸に近づく。僕は片手でそおっと引き戸を開けた。
僕は意を決して、台所に入った。
「あら」
和服を着た若い女性が僕の方を向いた。包丁を持っている。僕はぞっとした。違う。泥棒じゃない!幽霊だ。お、お化け!お化けは手に持った包丁を見た。
「あ、あらまあ」
お化けは微笑んだ。か、かわいい。お化けはかわいかった。目は大きくたれ、髪は青く、前髪を真ん中で分け、たらしていた。着物をたすき掛けしていた。
「ああ、ごめんなさい」
お化けは謝って、包丁をまな板に置いた。
「申し遅れました。私幽霊の夜野夏と申します」
「夜野夏さん」
「こんな夜分に申し訳ない」
「いえ」
まあ、幽霊って夜に出るもんだし、そりゃあ、仕方ないよな。
「でも幽霊の夜野さんがなぜ、こんな幽霊が出そうな汚い僕の部屋で一体何を」
「ああ、そう。私おいしいおいしいお味噌汁をおつくりしていたのです」
「はあ」
「ごめんなさい。断りもせず、あなたの部屋にあがりまして」
「い、いいえ」
まあ、幽霊だからな。勝手に人んちあがっていても仕方ないよな。
「でも幽霊の夜野さんが、なんでこんな夜更けにおいしいおいしいお味噌汁を?」
「よくぞ聞いてくださいました。それはですね。私が夢を持っている若者のところに現れて、おいしいおいしいお味噌汁をおつくりする幽霊だからなのでございます」
なるほど。夢を持っている若者のところに現れておいしいおいしいお味噌汁を作る幽霊だから、ネット作家を目指している僕の台所に現れたわけだ。そりゃあ、そうだよな。
「勝手に調理器具を使いまして、申し訳ありません」
「い、いえ」
「では私はお味噌汁をおつくり致しますので、居間でお待ちになってください」
「あ、はい」
夜野さんは、台所に向いた。
僕は夜野さんのうなじを見た。そうしてそうっと台所を出、引き戸をしめた。僕は掃除機のパイプを置いた。
僕は小さいテーブルを組み立てた。そうして台所とは反対側に座って待った。
引き戸の曇りガラスに人影が写った。僕は待った。やがて、引き戸がそおっとあいた。見ると、夜野さんが膝をついていた。夜野さんの前にはお盆があり、味噌汁の入ったお椀が置いてあった。夜野さんがお盆を持つと、立った。そうして居間に入り、また座りお盆を置き、しゃがみ込むと、振り返って、引き戸をしめた。
なんて奥ゆかしい女性なんだ。今時いないよな。
僕は安アパートに住んでいる。居間と台所、トイレ、お風呂がある。ベランダもある。
古いアパートで居間と台所が引き戸で仕切られているのだ。居間には机があり、PCがある。掃除機がある。掃除機はパイプを取って、ばらしてある。
僕は居間に布団をしいて寝ている。半袖、半ズボン。
それは真夜中の出来事だった。
僕はぐっすり寝ていた。シャツに短パンのパジャマ姿。冷房はない。うだるように暑い。
ふと、僕は起きた。なんかいい匂いがする。そうして物音がする。見ると、台所に灯がついている。泥棒?僕は思った。僕はそうっと起きた。
ことことこと・・・・・・。
なんだろう。僕は恐怖した。僕はそおっと起き上がり、掃除機のパイプを取った。僕はパイプを握りしめた。僕はそおっと引き戸に近づく。僕は片手でそおっと引き戸を開けた。
僕は意を決して、台所に入った。
「あら」
和服を着た若い女性が僕の方を向いた。包丁を持っている。僕はぞっとした。違う。泥棒じゃない!幽霊だ。お、お化け!お化けは手に持った包丁を見た。
「あ、あらまあ」
お化けは微笑んだ。か、かわいい。お化けはかわいかった。目は大きくたれ、髪は青く、前髪を真ん中で分け、たらしていた。着物をたすき掛けしていた。
「ああ、ごめんなさい」
お化けは謝って、包丁をまな板に置いた。
「申し遅れました。私幽霊の夜野夏と申します」
「夜野夏さん」
「こんな夜分に申し訳ない」
「いえ」
まあ、幽霊って夜に出るもんだし、そりゃあ、仕方ないよな。
「でも幽霊の夜野さんがなぜ、こんな幽霊が出そうな汚い僕の部屋で一体何を」
「ああ、そう。私おいしいおいしいお味噌汁をおつくりしていたのです」
「はあ」
「ごめんなさい。断りもせず、あなたの部屋にあがりまして」
「い、いいえ」
まあ、幽霊だからな。勝手に人んちあがっていても仕方ないよな。
「でも幽霊の夜野さんが、なんでこんな夜更けにおいしいおいしいお味噌汁を?」
「よくぞ聞いてくださいました。それはですね。私が夢を持っている若者のところに現れて、おいしいおいしいお味噌汁をおつくりする幽霊だからなのでございます」
なるほど。夢を持っている若者のところに現れておいしいおいしいお味噌汁を作る幽霊だから、ネット作家を目指している僕の台所に現れたわけだ。そりゃあ、そうだよな。
「勝手に調理器具を使いまして、申し訳ありません」
「い、いえ」
「では私はお味噌汁をおつくり致しますので、居間でお待ちになってください」
「あ、はい」
夜野さんは、台所に向いた。
僕は夜野さんのうなじを見た。そうしてそうっと台所を出、引き戸をしめた。僕は掃除機のパイプを置いた。
僕は小さいテーブルを組み立てた。そうして台所とは反対側に座って待った。
引き戸の曇りガラスに人影が写った。僕は待った。やがて、引き戸がそおっとあいた。見ると、夜野さんが膝をついていた。夜野さんの前にはお盆があり、味噌汁の入ったお椀が置いてあった。夜野さんがお盆を持つと、立った。そうして居間に入り、また座りお盆を置き、しゃがみ込むと、振り返って、引き戸をしめた。
なんて奥ゆかしい女性なんだ。今時いないよな。


