ジンはあの日、浴びるほど舐めたベアトリスの涙の味を反芻する。


美味で喉の癒える涙に、

普段は強気なのにとびっきりか弱く可愛い泣き顔、

それをジンにだけ晒す愛しさ。


全てを反芻し終える頃には、つい顔がにやけてしまう。しかも、ベアトリスの涙を浴びるほど舐めてから、ジンは若返ったような気持ちさえする。


そんな至極の役得を他の魔族に与えるわけがない、という意思表示が

「生贄姫を泣かせるのは私だけ命令」だ。


「あ!魔王様直々に泣かせてさっさと追い返すから、余計な手は出すな言うことやな!」


うちって頭いい!とエリアーナはうさ耳をぴょこぴょこさせて、サイラスに褒めて褒めて視線を飛ばす。

サイラスはうんと可愛く頷くが、ジンは首を横に振った。


「いや、もうベアトリスは人間国に帰さない。私の妻、正式な王妃として魔国にいてもらうと決めた」

「は?」

「は?」

「愛してしまったんだ。もう誰にもやらないよ」