ゆっくり、ゆっくりと時を遅らせてジンの瞳はその一粒の涙を網膜に濃く焼き付けた。焦がれた涙をついに手に入れて、ジンの心臓がドクリと脈打つ。

息が止まりそうなほどに、ベアトリスの涙は美しかった。


「優しくされると、泣いてしまいます……ッ」


一粒流れたベアトリスの涙は堰を切って流れ出した。


次から次へと宝石のように落ちていく。


なんてもったいないという衝動に突き動かされ、ジンはベアトリスの頬を流れ落ちる涙を丁寧に残さず舐めとった。


命が伸びるほどに甘く美味なその涙は底を知らず、その涙を含むほどジンの渇きは薄れ、胸にあたたかなものが満ちた。


「ッ……ぅう」


泣いてもいい安全な場所を得たベアトリスは、アイニャを想って存分に泣き始めた。おじい様が死んでから、アイニャを拾って育ててきた。


おじい様の遺した愛と、アイニャの愛があれば、ベアトリスは誰から何を言われても平気だった。


アイニャが傍にいてくれたおかげで、ここまで強く生きて来れた。


「アイニャ……アイニャ」


すっかり冷たくなったアイニャを抱きしめたベアトリスはジンの膝の上でぼろぼろ泣いた。


ジンは泣きじゃくるベアトリスを優しく抱き寄せては涙を舐めとった。ジンの尖った耳が涙を舐めとるたびにピクピクと恋慕を示す。



幼い妻は、なんて美味しくて、

かくも可哀想で、

酷く可愛い。