どうすればベアトリスが悲しみに屈服して泣くのか。その美しい涙を、この真っ赤な瞳で見ることができるのか。


ジンは涙への欲望だけで満ちている。みぞおちのゾクゾクが限界を越えて、喉が渇いて来た。喉から手が出るほど欲しいとはこういう感覚か。どうしてここまで彼女の涙を渇望してしまうのか。


「泣かないのかい?」


堪えきれずに問うてしまったジンに、ベアトリスはゆっくりと顔を上げた。


冷たくなっていくアイニャをスカートに包んでぎゅっと抱きしめたベアトリスは、ジンに向かって口端を強引に持ち上げて震えながら笑みをつくった。


「私は絶対に、泣きませんわ。魔王様」


涙を内包した笑顔がなぜか可愛そうで、極上に可愛かった。


ジンの尖った耳が動きを止めず、みぞおちはゾクゾクし続け、喉が渇いた。500年以上生きて、この魔王の腹をここまで揺さぶったのはベアトリスが初めてだ。


このかつてないほどのゾクゾクした乾きを、恋情だとジンは受け入れた。


「私は、君の涙を諦めない」

「受けて立ちますわ」


ベアトリスはアイニャをスカートに包んで立ち上がる。


ジンもつられて立ち上がりアイニャの血で顔や手が真っ赤に汚れたベアトリスにますます惹きつけられる。


ジンはもうどうしても、ベアトリスの涙を我慢できなかった。


「今夜は絶対に君を泣かすよ」

「ひゃ!」


ジンはベアトリスの足裏に腕を回し、軽々と横抱きに持ち上げた。ベアトリスは反射的にアイニャを落とさないように抱きしめる。


「魔王様、下してください」

「嫌だね。君の加護が発動しない。君は私を拒否していないということだ」

「魔王様?!」


サイラスからの加護研究報告で加護の特性を的確に理解しているジンは、アイニャを抱っこしたベアトリスを抱っこして持って帰ることにした。