最近魔狼がうろついているから、夜の散歩はおすすめしないとジンに言われていたからだ。


魔族には種類があり、

言葉を理解し二足歩行する「理性型」と、

言語を使わず殺戮本能にのみ従う「野生型」に分かれている。


野生型で獰猛過ぎて手が付けられない代表格が魔狼だと、ジンがベアトリスに教えてくれた。


だが、ベアトリスには加護がある。アイニャを探すためならば、魔狼の闊歩する外に行くしかない。ベアトリスは城外へと一歩踏み出した。


その時、背後からベアトリスの腕が掴まれる。


「ベアトリス、夜は外出を控えるように言ったはずだよ?」

「魔王様?」


ベアトリスが振り返ると右斜め上からジンの真っ赤な瞳が見下ろしていた。


「君の声はツノに響いて仕方ない」

「ツノに?」

「大声で他の男の名前を呼んで私の城を走り回って、まるで私を呼ぶ気配がないのはどういうつもりかな?」


アイニャが消えて混乱し緊張していたベアトリスは、ジンの拗ねた声を聞いて久しぶりに息ができた気がした。


ベアトリスの手を掴んだジンは、もう片方の手でツノを擦っている。



「アイニャがいなくなってしまって、心配で探していました」

「アイニャは、男の、君の使い魔だね」