置いたはずの場所にない金のロッドに、いるはずなのにいない最愛のアイニャ。


ベアトリスの大事なものが両方消えてしまった。


頭が良くないらしい魔族はなぜかベアトリスの大事なものを狙ってこないと高を括っていたが、ついにその日が訪れてしまったのだろうか。


ベアトリスはアイニャが攫われたのではと考えて胃が冷たくなった。


ベアトリスは服を着てから部屋を飛び出す。どこを探せばいいのか、全くわからなかった。


でもじっとしてはいられず、ベアトリスは薄暗い魔王城内を走り始めた。


「アイニャ!どこ!返事をしてアイニャ!」


薄暗く静まり返った魔王城内にベアトリスの大声が響き渡った。魔王城内に住まう誰もが、嫌われ者の人間の声にはわざと反応しないのが好都合だ。


ベアトリスの声に反応があるのはアイニャだけ。


ベアトリスは魔王城内のあらゆる場所をアイニャの名を呼びながら叫び回って探し回った。だが、アイニャの返事はなかった。あの愛らしい「ニャ」の声を早く聞きたかった。


「どうしましょう、もう探す場所がないわ」


ベアトリスは魔王城の玄関前で立ち止まり、外に出るのを躊躇した。