「そんなわけありませんわ!あんなところ誰が楽しいものですか!」



牡牛のツノを揺らすジンが尖った耳をピクピクさせてベアトリスをからかう。ベアトリスが大きな声を出したのでアイニャが目を丸くしていた。



「魔王様が助けてくださったのですか?」

「また君の使い魔に誘われてね」

「ニャ」


アイニャがまたベアトリスの頬をご機嫌に舐めて自慢してくる。アイニャがどうやってジンを呼び出しているのか、ベアトリスは不思議でならない。


にんまり自慢げに大きく頷くアイニャをベアトリスは苦笑して撫でた。


魔王城内の国民たちに聞き回るより、アイニャに案内してもらえば、案外ジンにあっさりたどり着けたのだろうか。



「今度はどんな贅沢があるのかと思ったら、封印現場で驚いたよ」

「助けて頂いて、本当にありがとうございました」

「封印を解いたら、君の泣いている顔を見れるのではと期待しただけだよ」



ジンは涙に期待したらしいが、結果として助けてもらったので理由は何でも良い。



「この封印術はエリアーナだろう?あの思考丸見えなエリアーナにやられるなんて、奥様は意外と罠にかかりやすいのかな?」

「ち、違いますわ!エリアーナ様の罠にわざと乗ったのです」

「ほう?どうして?」


エリアーナに連れてこられたときはまだ日があったがすでにすっかり夜が訪れていた。

月が輝く闇夜の下で、ベアトリスは後悔として残ったジンとの会話を手に入れた。


「その」


死ぬような体験を前にして、素直に話すのが悔いを残さない方法だとわかる。

ベアトリスは一度ごくりと唾を飲み込んでから、隣に座るジンをまっすぐ見上げた。



「魔王様に、お会いしたくて……」