だが、ベアトリスは離婚して人間国に帰るわけには行かない。

帰ったら殺されるより酷い生き地獄が待っている。



美しくも冷たい声を発する魔王ジンの隣で、結婚指輪の加護を盾に、魔国で絶対泣かない人生を生きる方がずっとマシなのは間違いない。



魔王様からの冷たく痛い視線を、ベアトリスは全て受けてなおも睨み返した。ジンの尖った耳がぴくぴくと小さく動いた。



「君の泣き顔を見るのが、とても楽しみだよ。私の幼い奥様」



ジンは口端を持ち上げ、魔族の魅了の笑みをベアトリスに贈る。



「魔国民一同、君に涙の小瓶いっぱいまで泣いてもらえるように力を尽くしてもてなそう。


みんな、生贄姫を丁寧に、泣かせるように」


ジンは魔国民全員に、生贄姫を泣かせとの優しい口調で命令した。黒いマントを優雅に翻したジンは、結婚式を静かに出て行く。


「死ーね!」

「泣かないなら死ねぇ!!」

(何をされても、私は絶対に泣きませんわ)


ベアトリスは決意を胸に真っ赤なウエディングドレスで、魔国民一同からの死ね死ね絶叫コールの中を歩き出した。



500歳年上の魔王様と、まだ10代の生贄姫。

離婚前提、イジメ前提の

「超絶年の差」結婚生活が幕を開けた。