「ほな、また後で集合な!」

「ニャ」


エリアーナとアイニャが遊ぶ約束をしたらしく、エリアーナはあっさり帰って行った。足にすり寄って来たアイニャを抱っこして、ベアトリスは軋む質素な木のベッドに腰掛ける。


昨夜、ジンに頬に触れられた時、加護が発動しなかったことがベアトリスの気にかかっていた。


(私はあの時、魔王様を拒否していなかったってことよね)


服を取るようなことを言ったものの、ジンは本気ではなかった。


(だって、魔王様は私に優しくしてくださったから)


服を焼くなり、湖からベアトリスが出られないように立ちふさがるなり、魔王ならあのままベアトリスを辱める方法はいくらでもあったはずだ。


なのに、ジンはそれをせず、マントまで貸してくれた。ベッドで眠る際に上から羽織らせてもらったマントに触れて、ベアトリスは顔が緩む。


(しかも月夜の魔王様、すごくお美しかった)


月の下で魔王様ジンが意地悪を言ったり、笑ったりした顔を思い出すとベアトリスはますますニヤけてしまった。


ジンはあの時、涙を諦めないと言っただけで、ベアトリスを傷つけることも一つも言わなかった。


ベアトリスを見て、美しいと、言ってくれた。


ただ泣かせたいだけの相手に、お世辞を言う必要はない。

ベアトリスはアイニャを抱っこして目の高さを合わせて問いかける。