中庭に面する魔王城の石の壁の影から、ベアトリスの背を魔国民たちが覗いていた。地下には逃げ遅れたが、ベアトリスの命令により塔が粉砕する前には命からがら逃げられたものたちだ。


「あのぷるんぷるんで、俺たちを守ってたんだよな」

「人間のくせに、どうしてそんなことするの?」

「どうしてかしら?」



ベアトリスは額から血を流して、立っているのもやっとに見えた。

弱い人間がそこまでして、魔国民を守る理由がわからなかった。

最愛の魔王様の意志を継ぐ為だなんて、誰の考えにも上らない。



「王妃様だから!」



首を傾げる魔国民の大人たちの間から羊のツノを頭に生やし、人間の顔をした男の子がハツラツな声で言った。



「強い王妃様だから、僕らを守ってくれるんでしょ?」



子どもの純粋な言葉に、魔国民たちは心打たれる。



「そう……なんだよな」



大人たちは、額から血を流し、真っ赤なスカートから伸びる細い足で、よろよろ立っているベアトリスを見つめた。


加護でカオスを捕え、魔王城に国民を避難させて守り、薄い体で血に濡れても前線に立っている。


そんな姿を見て、

誰が弱いなどと言えようか。


あの人間は、ここにいる誰よりも勇敢にカオスと対峙していた。


魔国民は強さに敬意を示す生き物だ。