ベアトリスは白いブラウスの袖で顔を伝う血を拭って、肩に乗る黒いぷるんを労う。ベアトリスはぷるんのぷるぷるを指で一突きして頷いた。


「ぷるん様が私の肩に戻ってきてくれて、本当に嬉しいですわ」


判断は間違ってない。遅かれ早かれ加護は消滅した。


ぷるんが死ぬまで働き続ける必要はなかったはずだ。ぷるんは最大限力を貸してくれた。


国民を守りたい意思を突き通すことはできたが、危機的な状況は変わらない。


サイラスたちの封印作業はまだ続いていて、上半身と口が自由になったカオスが次の火の玉三連発射までのインターバル中だ。

ベアトリスは瓦礫と化した監視塔を見つめる。



「一回目の賭けには、辛くも勝ちましたわね」



サイラスたちがカオスの下半身を魔術陣に沈めている。


そのため、地に半身が沈んでいるカオスは抜け出そうと上へ上へもがく。暴れて照準を定めないまま放たれる火の玉は、上空に向かって放たれる可能性が高い。



火球は上へ逸れると予想したベアトリスは魔国民を地下へ逃がした。


火球攻撃による、地下への被害が少ないことに賭けたのだ。

初手はベアトリスの読み勝ち。



だが、次はどこに当たるかわからない。



「魔王城が破壊される前に、魔国民を外へ逃がすべきかもしれませんわ」



血が流れる額を腕でぬぐったベアトリスは、ふらふらしながらまた立ち上がる。



「でも、無秩序に逃げるのはダメだわ。できるだけ、被害が少ない方法は」



考え続けなければいけない。国民を守るために、止まってなどいられない。




ベアトリスは魔国の王妃として、前線に立ち続けた。


最愛の魔王様を失った悲しみに暮れる贅沢な時間を、戦いは一瞬たりとも与えてくれなかった。