魔王の執務室で、机に向かって羽ペンを走らせているジンに向かって、側近のサイラスが口を開いた。


「生贄姫泣かせの件だが」


黄緑色の短髪と目をしたサイラスの容姿は人間の形だ。


だが、どう見ても人間でいう「10歳の子ども」である。


年齢不詳、形態無限の魔族において容姿と年齢は結びつかないことが多い。10歳の容姿をしたサイラスは、500歳越えの魔王様よりも年上だ。


「エリアーナが苦戦しているみたいだ」

「ほう、イビリ大好きアホエリアーナが?」

「相手をイビって封印詠唱して、ヒャッハーしてるエリアーナほど可愛いものはないけどな」


ジンは手を止めて、流れる黒髪の長髪を尖った耳にかけて顔を上げた。サイラスがエリアーナの封印詠唱姿を妄想して恍惚と頬を染めた。


「可愛いかな?頭が弱いだけだろう?」

「頭が弱いところも全部ひっくるめて可愛い」


500歳のジンにとって魔族歴80歳のエリアーナなど、まだ生まれたての赤ん坊にしか見えない。


だが、さらに長く生きているはずのサイラスにとっては、堪らなく可愛いらしい。嫁にするチャンスを虎視眈々と狙っているのは見ればわかる。


サイラスの見た目が子どもなので、うさ耳ナイスバディのエリアーナの方が肉体は大人である。


だが、実質年齢はサイラスが圧倒的年増で……と考え始めると、魔族にとって恋愛的年齢観念は超個人的見解によるものがある。


ジンはサイラスの恋愛を置いておいて、赤ん坊のエリアーナよりさらに幼い妻の話題に頭を戻した。


「私の妻はまだ泣いてないのかい?一回も?」

「涙の小瓶に一滴も反応がない」