「威勢のいい啖呵は見事だ」


ベアトリスがビシッとカオスに指を差して喧嘩を売った後ろで、サイラスの声がした。血染めのスカートを翻し、手も真っ赤に染まったベアトリスが振り返る。



「サイラス様、よくご無事で」

「こっちの台詞だ」



ベアトリスは頼れる師の帰還に肩から力が抜けた。



「うぅ……魔王様……うちのせいで。またうちのせいで」



ベアトリスが視線を下すと、横たわったジンの身体にエリアーナが縋りついていた。サイラスがジンを見下ろして無感動な黄緑色の目をしている。エリアーナ以外の死は唐突であり、避けがたい自然の現象だ。



「ジン、よく休め」



サイラスがパチンと指を鳴らすと、ジンの身体が忽然と消えた。魔王城内へ安置してくれたのだろう。


だが、サイラスとエリアーナの帰還を喜ぶ間もなくカオスがぷるんにまた三連射火球を繰り出していた。


カオスの攻撃は物理攻撃か、三連射火球のみ。


「馬鹿の一つ覚え」である。


だが、そのシンプルさがいかに強力かは誰の目にも明らかだった。



究極の馬鹿は、惨いほど強い。



魔王城の上階中庭の魔国民たちから悲鳴が上がる。


「エリアーナ、泣くのは後だ。仕事が残ってる」