もう、一人になるくらいなら一緒に死んでしまいたいという思考にベアトリスが本気で落ちかけた時、背後に大勢の気配が現れた。


ジンに縋りついて滝のように泣いていたベアトリスが、無防備な泣き顔を上げて振り返る。険しい顔をした魔国民がぞろぞろと集まっていた。


「魔王様が……」

「ぜってぇ許さない」

「いくら強くても、野生型の横暴に私たちは屈しないわ」

「やるぞ」


多種多様な容姿をした魔国民が血まみれのジンの前に集まって、唇を噛んだ。

魔国民が敬愛する魔王様の死を誰もが悼み、



獰猛な怒りを孕んだ。



ジンを慕う魔国民は一直線に復讐に踏み出す。



「魔王様の弔い合戦だぁああ!!!」

「「「うぉおおおお!!!」」」



一人が雄たけびを上げると、全員が賛同した。知能の低い魔国民は勝算もなく、ただ気持ちだけで突っ走る。誰も止めない。


このままジンをも屠ったカオスに向かっていくなど、自殺でしかない。



『私の国民たちを頼むよ。我が愛しの王妃』



奮起して自滅を目指す魔国民を前にして、ベアトリスは細い腕で涙を拭いた。


泣いている場合ではない。

愛する魔王様と約束したのだ。



彼らがベアトリスを全く愛していなくても、

この愚かで愛すべき国民たちを守り抜くと。



(我が愛しの魔王様の願いを、叶えますわ)



ジンにぼろぼろ落とした涙を振り切り、真っ赤な血に染まったスカートで立ち上がる。


愛する人の願いを全力で叶える。

そのためにどんな困難にも立ち向かう。



(それが私の、魔王様への愛ですわ)