魔王城内の魔国民たちが、二人の近すぎる距離を目撃して眉をひそめてひそひそと噂していた。

ざわつく魔王城内の声をよそに、ジンはベアトリスの耳に囁く。


「帰ったらキスをしよう」


ジンの言葉に耳がカッと熱くなったベアトリスのクリスタルブルーの瞳が零れ落ちそうだった。


「い、いいのですか?」

「カオスを退けた祝いなら、何もかも無礼講だろう?」


クスッと笑ったジンは、名残惜しくベアトリスの金色の波髪を撫でて、コウモリのような羽を広げた。


ジンの操る魔術は多彩だ。コウモリ羽を操って空に浮き上がるジンを魔国民みなが見上げた。


ざわつく魔国民にジンが告げる。


「静まれ」


ジンの声に誰もがひれ伏し、片膝をついて頭を垂れた。結婚式のあの日に見た光景だった。これが魔王の命令権だ。


「カオスは私が倒す。皆は魔王城で王妃の加護を受けるように」

「人間の王妃なんかに?!」

「黙れ」


弱い人間の王妃ごときに従えというのかと反論をもった民が顔を上げるの許さず、ジンは誰にも口を開かせないように圧力をかけた。


「ではみんな、仲良くいい子で待つように」


コウモリ羽で空に浮いたジンの向こう側、夕暮れの中に巨大な紅い竜が出現した。ジンは黒いマントをなびかせて魔国民を背に守るために、死地に赴いた。