深夜にもかかわらず、魔王ジンがツノ鳴り響かせた。


ジンのツノは声を聞くにとどまらず、魔国中の魔族へ直接命令を送ることができるのだ。


『魔王城へすぐに来い』


理由説明など一切ないシンプルな入電に、言葉を理解する魔国民たちは動き出す。理由などなくても、魔王様がそう言うならと動けるのが魔国民のアホ良いところだ。



緊急時の避難所としても魔王城は機能する。各地から続々と魔王城に多種多様な種族が集まってきて、そこら中でケンカが起き始めていた。



「お前、今肩ぶつかっただろうが!」

「狭いんだから仕方ないでしょ!そんなこともわかんないの?!」


ジンはツノで魔王城内の喧嘩をいくつも同時に察知する。


魔王執務室で椅子に座ったままパチンと指を鳴らしてアホ魔国民どもを何十人も一度に壁に貼り付けていった。サイラスより効率が良い。


「魔王城内が物々しいですわね」

「一気に戦時中になったと思ってくれ」

「わかりましたわ。気を引き締めます」


魔王執務室にて、ベアトリスはジンの雑務の手伝いに奔走していた。サイラスが留守の分までベアトリスが働いた。


今までサイラスに教えてもらった知識が存分に役に立った。パチンパチン指を鳴らし続け働きづめのジンに、ベアトリスは生き血ジュースを差し出した。


女性らしいささやかな心遣いにジンのみぞおちがゾクゾクする。サイラスならジンに自分で飲めと言うだけだ。こんな時でも幼い妻が劇的に可愛い。


ジンがパチンパチン鳴らす指を止めて、ベアトリスの手首をつかむ。