「アイニャは魔狼に食われて死んだが、もしアイニャが食われそうな場面に君が居合わせたならどうする?」

「もちろん助けますわ」

「どうやって?」

「私には加護がありますので、抱きしめます」


ベアトリスが触れているものは初代魔王様の加護対象になる。ジンはうんと頷いた。


「では、アイニャは見えてはいるが、手が届かない距離にいるとしたら?」


ベアトリスはアイニャの墓を見つめた。絶対に助けたい。後ろ足を齧られて死ぬなんて惨いことは絶対にさせない。


「どうにかして守りたいですわ」

「そうだね。それが初代魔王様の加護の正体だと私は思うんだ」


ジンが溶けそうなほど温かい目を細めて、ベアトリスに立ち上がるように手を差し出す。


ベアトリスは何度でもその冷たい手に手を重ねて立ち上がる。



「初代魔王様は生贄姫を守りたかった。おそらく、深く愛していたんだろう」

「私もそう思っていましたわ」



拒否したもの全てを拒む過剰なほどの鉄壁は、生贄姫への深い愛だ。ジンがベアトリスを連れてアイニャの墓から五歩離れていく。


「初代魔王様の愛は生贄姫を守るのみに留まらなかった」

「どういう、意味でしょうか」

「加護には生贄姫の守りたいものさえも、一緒に守れる力があると思うんだ。


私が初代魔王様だったらそうするからね」