人間国で曲がりなりにも貴族として生きて来たベアトリスに「戦闘」は程遠い言葉だった。


「ぇええーー!」


素っ頓狂な声を上げて頭を抱えるベアトリスの頭上で、パクンがパクパク口を開けて噛みつくが初代魔王様の加護に阻まれている。



「ちなみに加護の強度観察実験も加味している」

「なんですって?!」

「いや、こっちの話だ」

「いやああ!」



パクンが頭上でガチンガチン狂暴な歯音を鳴らしてベアトリスが叫ぶと、サイラスがクスクス笑う。ベアトリスはこの状況で笑うサイラスに冷ややかな気持ちになった。何も可笑しくない。



「サイラス様、本気ですか?!私は女性で剣も握ったことがなくて」

「エリアーナと同じだ。彼女も女性で剣を握ったことがない」

「うっ」


サイラスの言うことには無駄がない。だがベアトリスはまだ反論する。ガチンガチン凶悪な歯音が胸に響くが、口が回る限り口を働かせるのはベアトリスの戦闘方法だ。


「エリアーナ様は魔族で、魔術をお使いですわ!私には魔術は使えません」

「使えるはずだ。その指輪でな」