サイラスがジンに呼ばれて執務室を訪ねようとすると、魔王執務室からワニおじさんが出てきた。


「フェルゼン、ジンに用事か?」


フェルゼンと呼ばれたワニおじさんは、屈強な鱗だらけの身体でサイラスの前でお辞儀をした。


「サイラス様。また、フラれてしまいましたがねぇ」


縦に長い瞳孔をギラつかせたフェルゼンはそれだけ言うと、サイラスの横を通り過ぎていった。穏やかではないようだ。


サイラスはフェルゼンの用事にアタリをつけて、ノックをして魔王執務室に入る。


「直談判か?」


ジンは執務机に肘をついて、うんざりした顔をしている。


「ああ、やはり人間が長く居座るとフェルゼンのような魔族崇高主義の癇に障る」


軽くため息をついたサイラスは執務机の前に置かれた椅子にちょこんと座った。


長い間、生贄姫条約により不可侵を続けている人間国と魔国ではある。


長い時の間に、サイラスのような賢者が人間国の治癒の力を研究しようと交流をする時も幾度かはあった。


サイラスは知識欲から人間に取り入ることもある。


だが魔族と人間が仲良くするなんて言語道断!魔族こそ至高の生き物!の魔族崇高主義は未だに色濃く残っているのだ。


「人間はいつ帰るんだって矢の催促さ。なだめてはいるんだけどね」

「血迷ったことをしなければいいが」