ベアトリスが魔王城の中を歩けば、ドレスを纏ったドクロ夫人、ずんぐりむっくりで毛深くて小さいおじさん、鱗まみれのワニ顔の戦士、様々な魔国民たちがベアトリスを遠慮なく口撃してきた。



「おうおう、無能な生贄姫様のお通りだぜ?」

「魔王様を殺したいのかしら?みんなで沼に沈めるのはどう?」

「早く殺せばいいのよ。次の生贄姫を連れて来れればいいわ」

「死ーね!シーネ!」




だが、人間国での学生時代も、散々罵られてきたベアトリスにとって、そんな罵りは痛くも何ともなかった。すごく慣れている。


「ニャ」


心配そうに肩に下げた袋の中から見上げてくる黒猫のアイニャを見つめて、ベアトリスは柔らかく笑う。



「アイニャ、私はどこにいたって強くあるの。それがおじい様の願いよ」



ベアトリスはアイニャに向けた愛らしい笑顔を仕舞った。



「こういう時は一番声が大きな方を相手にしましょうね」



廊下の端から特に大きな声で罵倒してきたイノシシ顔でドレスを着こんだ三人娘の前に、ベアトリスは美しく立ち向かう。

イノシシ娘三人組は、きりっとした目尻で金髪の波髪を揺らすベアトリスを睨んだ。



「あー人間臭くて」

「嫌になるわ」

「なるわ」

「生贄姫のくせに勝手に泣かないだなんて宣言して」

「この人間はさらに臭いわ」

「臭いわ」

「臭い人間は人間国と魔王国の条約を」

「理解しているのかしら?」

「かしら?」


イノシシ嬢三人組は三人そろって「かしら?」と首を同じ方向に傾げる。見事に息があっていてベアトリスをおちょくっている。

悪口は慣れっこだ。だが、攻撃してくる奴に対して、黙っている必要もない。