天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む

「また泣いてもいいよ。ケンカ腰になってもいいし」
「今日はシラフなんで!」

 醜態をさらしてしまったあの日の記憶が蘇り、慌てて制した。恥ずかしがる私に、相良さんはクスクスと笑って言う。

「でもせっかく会えたんだし、少し話さないか?」
「はい。あ、フライトでお疲れじゃなければ……」
「今日は地上勤務だったから平気」

 ああそうか、スーツだしね。ビジネスマンスタイルも本当に百点満点だなと、改めて感服してしまう。

 またこうして話せるのも嬉しく思いながら、「じゃあ、ちょっとだけ」と承諾した。

 とりあえずエスカレーターを上り、屋上にある展望デッキに出てみた。地方空港とは違って、ひっきりなしに飛行機が離発着している様は圧巻だ。

 午後六時を過ぎた今、夕暮れの空は松本空港で最後の管制をしたあの日と似た色に染まり始めている。山がない分日が長いなと感じていると、私の隣で手すりに肘をかけて空を眺める彼が口を開く。

「しかし、拓朗は相変わらずだな。あいつは気をつけたほうがいい。女性関係でいい話は聞かないから」
「ええ、さっきも恋愛遍歴に呆れていたところで」

 ユカちゃんだのミナコさんだの、可愛い女の子たちに囲まれる彼を想像して口の端を引きつらせた。