難しい顔をしていると、茜はまっすぐ私の目を見つめて切実そうに訴える。

「とにかく、彼のキスを無駄にしちゃ絶対ダメ。せっかく昔の恋を吹っ切れそうなんだから」

 彼女の言う通り、あれ以来城戸さんのことを考える頻度は確実に少なくなってきているので、一応「はい」と頷いた。

 キスを無駄にしないためにどうすればいいのかはわからないが、とりあえずまた会える機会があったら無線のお礼を言おう。

「それと、城戸さんは大丈夫なの? まだ羽田にいるんじゃなかったっけ」

 茜に問いかけられると同時に、口に運んだマリネの酸っぱさが広がる。

 彼女の言う通り、今回の異動で城戸さんとの件が悩みのひとつだった。

 彼はあれからも異動はしておらず、私の移動先である東京空港事務所に勤務しているらしい。同じ担当になる可能性は低そうだが、顔を合わせるのは避けられないだろう。

「うん……まさか自分が出戻りになると思わなかったから困ってる。でも部署は違うかもしれないし、あんまり会わないように祈っとくよ」
「だね。とりあえず、どうなったかまた報告して」

 茜はさっぱりとそう返したものの、表情を切なげに変えてひとつため息をつく。