それから、事務所にも常に流れているゴンさんとパイロットとの交信を耳に入れながら、遠野くんや他の職員さんたちと楽しく軽食をとった。茜も隙を見てわざわざ会いに来て、「あと少しだけど頑張ってね」と励ましてくれた。
元気をチャージして管制塔に戻った私は、腕組みしてパソコンの情報を見ているゴンさんにお伺いを立てる。
「ゴンさん。HA1102便、私が担当してもいいですか?」
「ああ、もちろん」
快く了承した彼は、駐機している機体を見下ろして言う。
「今日のパイロット、相良なんだってな。あいつも降旗のほうが喜ぶよ。前に『誰よりも信頼できる』って言ってたから」
ゴンさんにそんなことを? どうして私をそんなに信じられるのかわからないけれど、嬉しくないはずがない。
ちょっぴりくすぐったくて俯く私を、彼がにやにやして見てくる。自分の口も緩んでいたのに気づいて、すぐに表情を引きしめた。
その後も順調に業務は進み、いよいよ今日最後の離陸が始まる。三時間ほど遅れたものの不具合はしっかり直ったようなので、安心して見送ろう。
プッシュバックしたエメラルドグリーンの機体が、滑走路の端に移動を開始した。午後六時の空は、太陽の名残りで山際が朱く染まっている。



