天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む

「すみません。自分が甘ったれなのは重々承知しているので、なにも言わないでください」

 しっかりしろ、と自分を奮い立たせて背筋を伸ばす。彼は少し目を丸くした後、ふっと口元を緩めた。

「慰めてあげようと思ったのに。それもいらない?」
「お気持ちだけで」

 軽く頭を下げて遠慮する私に、彼はクスッと小さく笑って頷いた。

 こういう時、素直に聞いたほうが可愛げがあるんだろうな……なんて思いつつ、気持ちを切り替えるために話を変える。

「それより、今日は相良さんが無線担当ですか? さっき交信してましたよね」

 先ほどの無線で聞こえてきたのは、おそらく相良さんの声だった。本来なら機長である彼が操縦して副操縦士が無線を担当するはずだが、今日は逆だったらしく彼は頷く。

「ああ、着陸はね。コーパイが機長昇格間近で信頼できる人だし、今日はコンディションもいいから任せてみた。でもこの分だとだいぶディレイしそうだから、離陸は俺が操縦すると思う」
「そっか、暗くなりそうですもんね」

 先ほど、HA1102便のトイレの水道にちょっとした不具合があり、修理に時間がかかりそうなのでそれの離陸が今日最後になるかもしれないという旨を聞いた。

 午後六時頃には日が落ちるし、いい条件が揃わないと副操縦士には操縦を任せられないのだろう。