天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む

 そんな風にあの日から何度も考えていたわけだが、今日ばかりは遠い日の城戸さんが頭の中を占めている。

「でも、さすがに今日は彼のことを考えずにはいられません。ここで管制するのも、今日が本当に最後なので」

 そう。ここ松本空港は、明日からリモートでの管制に切り替わる。新千歳空港にある対空センターから遠隔で監視して無線交信も行うため、管制塔は無人となるのだ。

 情報官が必要なくなるので、私は再び東京へ、ゴンさんは北海道への異動が決まっている。もうこの松本空港の管制塔に立つことはない。

 あの場に立つと、城戸さんと出会って情報官を目指し始めた当時のきらきらとした思い出に包まれていられた。それが仕事をする上でのモチベーションにも繋がっていたから、生きがいがなくなってしまいそうな気さえする。

 ここ数週間は、この日が来てほしくなくてずっと気持ちが沈んでいた。

 相良さんも、今日で私たちがここから去ることはもちろん知っている。

「けじめがつけられていいんじゃないか。いつまでもここにいたら、君が綺麗なまま残している幻想の彼に囚われたままだ」

 冷静に厳しめなことを言われ、少々ムッとしてしまう。的を得ているので余計に。