天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む

 雪で遅れているのかタクシーがまだ来ないので、ブーツの踵を上げたり下げたりして寒さをやり過ごしていると、今しがたの相良さんの言葉でふと思う。

「世界にふたりだけか……。そのくらい強制的に他の男性を見るような状況になれば、私も新しい恋ができるのかもなぁ」

 その人しかいないとなれば否が応でも意識するだろうし、ずっと見ているうちに好きという感情も生まれるかもしれない。まあ、そんな状況になるのは不可能だけど。

 我ながらしょうもない考えだなと自分に呆れて小さく笑うと、視線を感じて隣を振り仰ぐ。私を見下ろす彼の、妙に真剣さを感じる瞳に捕まり、なぜか目を逸らせなくなった。

「強制的に他の男を見る方法、試してみる?」

 そんな方法があるの!?と目を見開いた直後、相良さんの雰囲気が変わった気がした。危険な男らしさみたいなものを感じる彼の、大きな手が伸びてきて私の頭を支える。

 次の瞬間、整った顔がみるみる近づいて──柔らかな唇が、私のそれと重なり合った。

 視界いっぱいに、まつ毛を伏せた綺麗な顔が映る。なにが起こっているのか理解が追いつく前に、その顔はスローモーションのように離れていく。