天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む

 奥様の立場だったら、いくら身体の関係を持たなかったとしてももちろん嫌だろう。彼が私に手を出さなかったのは、奥様に対して罪悪感があったからだと思う。それに気づかなかった自分は愚かすぎる。

 深いため息を吐き出してうなだれると、相良さんの手が頭にぽんと乗せられる。

「既婚者だとわかってすぐに潔く諦めたんだろ? それでも離れられない人もいる中で、君は奥さんの気持ちもちゃんと汲むことができている。そんなに自分を責めなくていい」

 慰めの言葉と共に優しく頭を撫でられ、溢れそうになる涙をぐっと堪える。何度も泣いたから、もうたくさんだ。

 まつ毛についた雫を拭い、気持ちを落ち着けてから再び口を開く。

「その頃ちょうど異動願いを出せるタイミングだったので希望を出しました。松本への異動が決まってなにも言わずに離れたんですけど、今もメッセージが送られてくるんです。未練はまったくないのに、どうしても彼を忘れられなくて困っちゃいますよ。早く吹っ切りたいのに……」

 新しい恋愛をしたくてもあの人の姿が頭から離れないし、無意識に彼と比べてしまったりもする。そもそも出会いも少ないのだけれど。