天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む

 俺も冷静ではいるが、まったく動揺していないわけじゃない。視界が悪い中、満足に通信がやり取りできない状況はとても恐ろしいことだから。

 万が一、到着するまでに他のシステムに異常が起こっても、それを知らせる術がない。近くに他機が迫っていた場合も同じだ。莉真からの通信も聞き取りづらいし、いつ途絶えるかわからない。

 普段の何倍も精神力を削られる状況で、判断を誤れば危機に直面するかもしれない。一気に緊張が高まるコックピットに、再び雑音と共に交信が入る。

『HA479,Hachijyo redio. If you read me IDENT.(ヒノモトエアー479、こちらは八丈レディオ。もし聞こえていたらアイデントボタンを押してください)』

 IDENTというのは本来、レーダーに映るこちらの機体のマークを変化させて管制官が見つけやすくするためのものだが、今は受信ができているかの確認のために声をかけたのだろう。

 言われた通りにコーパイが信号を送ると、しばらくして返答が来る。

『HA479、ありがとうございます。現在、5000ft付近にトラフィックはありません。無事到着するよう、こちらからの情報は逐一お伝えしますのでご安心ください』

 いつもと変わらない、落ち着いた声。しっかり聞き取れるよう日本語で伝えるところもありがたく、彼女の気遣いを感じる。