天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む

「これは確実に故障、ですよね……?」
「ああ。スコーク7600にセット」

 スコーク7600とは、無線機が故障したことを地上に知らせるコードだ。コーパイは表情に動揺を露わにしながらも、「了解」と返事をしてスイッチを押した。

 出発前の確認作業では問題なく、つい先ほどまで使用できていたのに、なにが原因で……いや、それより今はとにかく対応に集中しよう。

 無線機が故障した時の手順はしっかりと定められていて、パイロットだけでなく管制官や情報官も対応できるように訓練されている。莉真たちにこの情報が届き、援助してくれるのを信じて飛ぶしかない。

 目視ができるなら最寄りの空港に着陸するのが決まりだが、今は視界が悪く他の航空機も確認できない状態。こういう場合は高度や速度、針路の測定などを計器だけに頼って飛行する、IFRという方式で目的地へ向かうことになる。

「フライトプランに従って、IFRで雲が切れるまで飛ぶ。といっても、今日の天候だと視界が開ける前に八丈島に着いてしまいそうだが」
「了解しました。……初めてです、訓練以外で飛行中に無線機が故障するのは」
「俺もだ」

 表情を変えずにさらりと答えると、コーパイはさらに不安そうな顔になった。